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【!ご注意! BL・性的表現を含む、不倫、かつBAD ENDのifストーリーです。暗いよ。】
庭のバラが花を咲かせるころ、父から許嫁だという女性を紹介された。
『そろそろ孫の顔を見せておくれよ』
それが生い先短い父にできる親孝行だろう、とせがまれた結果だった。少しの交際を重ねて、婚約は順調に進められた。
「おめでと」
ヤスツナはなんでもないように言って、いつものように笑った。
特に望んだ訳でもないが、紹介された人物は利発でおだやかな女性だった。きれいな指をしていて、それを褒めると無邪気な笑顔を見せた。
笑った顔は、少しヤスツナに似ていた。
青薔薇の紋章
「にしても、カネサダが結婚かぁ。小さい頃から一緒だったのに、なんだか感慨深いよ」
剪定したばかりの白いバラを撫で、しみじみとヤスツナはつぶやいていたが、突然顔を上げ思い出したように言った。
「ねぇ、どうして青いバラはないんだい?」
「バラには、青い色素はないと言われている。青いバラを咲かせるなんてのは、不可能の代名詞みたいなもんだ」
「そっか」
そっけなくヤスツナは言った。興味のない話だったろうか。
「僕は見てみたいけどな。不可能なんて、ないって思いたいよ」
刹那主義の彼には、似つかわしくない言葉に思えた。
いつも通りの仕事を済ませ、寝室へ戻る。支給されているスカーフを解いてベッドに腰掛けると、ヤスツナが読んでいた本を閉じて隣に座った。
「もうじき式を挙げるの?騎士の務めは、どうするんだい」
「なにも、全部が変わるわけじゃない。今までどおりだ」
「でも、きみが傷を負って、悲しむ人が増える」
彼女のあどけない笑顔を思い浮かべる。その表情が悲しみに歪む姿は、見たくない。
「知ってた?僕、カネサダのこと好きだったんだよ」
急に立ち上がったヤスツナは小さな声で、しかしはっきりと告げた。挨拶のように自然な口調で、好きだった、と。過去形にされた言葉は、お前の中で整理がついた証なのか?
長い間気持ちを向けられていたことは、知っていた。
それはとても穏やかで、温かく、やわらかな春の日差しのような好意だった。しかしヤスツナはその感情を口にすることはなかった。
けれど、もう遅い。おれはお前の知らない恋人に、未来をあずけてしまった。
だから、聞こえないふりをした。
「…おやすみ」
次の晩は、寝室に戻るなりヤスツナの方から強引にキスを強請られた。
「しよ」
半ば無理矢理ベッドに押し込まれる。断ることも出来ず愛撫をはじめると、ヤスツナはぽつぽつと言葉を並べた。
「子どもの頃から…ずっと一緒だった。それはこれからも変わらない、いつまでもそばにいられるって…漠然と、そう思ってた」
長い睫毛がふるえている。
「これからも、そばにいることはできる。友達として」
「それじゃダメなんだ」
吐き出した言葉を、ヤスツナははねつける。
「友達同士は…セックスなんかしない。こんなの友情じゃない。僕はきみが好きなんだ。でも、僕は男なんだよ。
どんなにカネサダを愛しても、きみの子を生むことは出来ない。できないんだよ」
子供のようにヤスツナは泣いた。
「結ばれないなんてわかってた。未来のためにカネサダがほかの女の子を選べばいいとも、
誰のものにもならないで欲しいとも思ってた。けど、そのどちらも叶えるなんてできない。
ましてや僕はきみじゃない。きみの未来を、僕が変えるなんてできない」
「ヤスツナ」
おれにはなにが出来ただろうか。なにをすればよかっただろうか。
ただヤスツナの言葉は、懺悔のようにも聞こえた。だから黙って、聞いていた。
「カネサダは前へ進んでいく。僕は、ずっと逃げてばかりいた。変われない。
きみと結ばれないならって、好きでもない女の子を抱いたし…男にも抱かれた。
そうしたら忘れられると思ったのに…そんなことなかった。思いは、強くなるばかりだ」
ヤスツナは腕を伸ばして、おれの肩を抱いた。ひどく弱々しい力で。
「だからこれは、最後のお願い…」
最後だなんて、言うな。言葉にできなかった。
この先なんてない。どこかで、それを認めている自分がいた。
「ねぇ、カネサダ。僕を抱いてよ。これで満足してきみを忘れられるように。めちゃくちゃに、僕を犯してよ」
下卑た言葉にも、それに反するようなまっすぐな瞳にも、迷いはなかった。
なすすべもなくて、おれはがむしゃらにヤスツナの妖艶な体を抱いた。首筋に、胸に、腰に。使命のように指を這わせた。
角度を変え強引に突くと愉悦の声が漏れる。熱を帯びたまなざしは、長年連れそった幼なじみではなく、熟練の娼婦のようだった。
一番近くにいて、何度も体を重ねてきたヤスツナは、おれと交わされる快感を知り尽くしている。熱い息を押し込めると絶頂が近いことを察したのか、背中に回した腕に力がこもる。
「あ…あ、カネサダ、おねがい。抜かないで…。いいよ、全部中に出して。
大丈夫だよ、僕は男だから…はは、妊娠しないよ…男なんだから」
狂気じみた彼の声は、笑っているのか泣いているのか判別できなかった。
「僕とは違う。きみには未来があるんだから」
いつもの声で、穏やかにヤスツナは言う。
お前を欠いた未来など、想像できるものか。
言葉にすることは叶わなかった。望み通りに奥まで精を注ぎ込み、快感を満喫したヤスツナは長い間静かに横たわっていたが、長い睫毛を濡らしたまま眠ってしまった。
領土が敵国に侵略され、防衛戦に駆りだされたのは婚儀の前夜。
戦地は、間もなくおれの妻となる彼女が住む、バルフォグ湖だった。
「総員、撤退!」
部隊長でもある、ムラマサ執事長の声が上がる。
ユニオンは窮地に追い込まれ、残り少ない砦を守る騎士たちは息も絶え絶えだった。
傷ついた戦士をサヤお嬢様が小さな手で懸命に治癒する中、兵士から伝令が届く。
「東の砦にて多くの騎士が負傷!あちらに戦力を集中させてください!ここは、もう…」
「ムラマサ。まいりましょう。ケガをなさった方の治療をしなくては…」
「む…しかし」
サヤお嬢様にさえ言葉を濁し、執事長はちらりとおれの顔をうかがい見た。
この西の砦のそばには、彼女の住む村があるのだ。ここを失えば、どうなるかはわからない。
「ムラマサさん。東の砦を失えば、敵陣に一気に攻め込まれます」
すっと立ったヤスツナが、進言する。
「ここは何があろうと、私が守ります。あなた方はどうか、より多くの助けとなって」
おれの顔を見て、穏やかに笑った。戦場にあまりにも不釣り合いな、柔らかな微笑みだった。
「それでは、おまえが…」
「お急ぎを!東の砦はもう敵軍に攻め込まれております!」
「く、一刻を争うか…ヤスツナ、そなたを信じよう!お嬢様、カネサダ!東へ向かうぞ!」
兵士の声に急かされ、おれたちはまるで逃げ出すように西の砦をあとにする。ひとり残される彼の名を呼ぶ余裕もなかった。
「カネサダ」
だから、呼ばれた名前に振り向くこともできなかった。
「愛してるよ。幸せにね」
そう、いつもの笑顔で言われた気がした。小さな、しかしはっきりと響くヤスツナのきれいな声。
最期だとわかっていたなら、その顔を覚えておけたのに。
「誇り高きユニオンの騎士として、ここは通さない。
我が名はステラ騎士団第七部隊、姫の刃が一振りヤスツナ。この名、生き延びし者はとくと語り継げ!」
夜明けまでもつれ込んだ戦いは、ほんの僅かな差でユニオンが勝利をおさめる。
西の砦には、おびただしい量の敵国兵の血と、ヤスツナの亡骸だけが残されていた。
その背には、ひとつの傷跡もなかった。
「この度は…厳しい戦いであった。単身、西の砦を一歩も退かず守り、影ながら戦を勝利に導いた彼を…
勇敢で誠実な誇り高き騎士として手厚く埋葬し、その名を称える事としよう。
……そなたら、見事な働きであった!この記章を授けよう」
苦々しくも厳かな言葉と共に国王陛下が差し出したものは、青薔薇の紋章だった。
いつか、ヤスツナが見たがっていた青いバラ。
不可能を可能にした、おまえを讃える紋章。
逃げて、逃げて、逃げ出して。おまえは何を手に入れた?
おまえを失ったこの世界で、おれはまだ生きていく。
生きていかなければならない。
逃げ場所など、もうどこにもない。
彼の好きだった白いバラを墓前に供える。
雲ひとつない青空を反射して輝く、その花弁は彼の笑顔のようだった。
不可能を可能にする、青い薔薇の紋章。
その花を咲かせられるのは、挑んだものでなく、逃げ出したものだけ。
逃げ出さずはじめて向き合ったとき、皮肉にもそれが命取りとなった。
青いバラの花言葉は、「叶わぬ望み」。
「笑いながら嘘をつくひと」「ひどく悲しい理由で中田氏を強要する受けが見たい」
というテーマからこのお話ができました。すごい!最低!
読んでいただきありがとうございました。
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